1980年、「美女と野獣」を元にした初代「もののけ姫」を描いた宮崎駿監督。映画化にいたるまで、どのような変遷があったのか、詳しい本に出会えました。
監督が最初に作りたかったオリジナル映画が「もののけ姫」だったのですね。制作の経緯がおもしろい。
八〇年、宮崎は『カリオストロの城』に続く監督作として、初のオリジナル企画を構想し、九十五枚にわたるイメージボードを描いた。(中略)作品のタイトルは『もののけ姫』。
当時、SF・ロボットのアニメが全盛期だったようで、時代劇は「暗い」の一言で却下されてお蔵入りになったそうです。このとき、トトロも一度ボツに。
この願望は別の形でまとめられる。八三年六月発行の絵物語『シュナの旅』(徳間書店)である。
(中略)
しかし、シュナの友は大鹿ヤックルであり、怪僧と語らう野営シーン、種を吐く緑色の巨人など、本作の原形と思しきモチーフが散見できる。
宮崎駿監督は、時代劇としての「もののけ姫」をずっと思い続けて、ストーリーを新たに構想。イメージボードにはなかった「ヤックル」などの設定は、「シュナの旅」のころのものなのですね。
映画「風の谷のナウシカ」の次にも「もののけ姫」が再浮上したそうですが、「天空の城ラピュタ」に決まったらしい。続いて、同じくボツになった「となりのトトロ」が先に映像化されることになったみたいです。
映画化に際しては「もののけ姫」のアイデアが流用された。もののけの洞窟にあった縄文土器風の大瓶がトトロの住処に置かれ、もののけの大独楽がトトロの飛行具(ただし独楽の縦横は逆)に流用され、ネコバスはもののけ風の巨大山猫であった。
元祖「もののけ姫」の大山猫のデザイン。ネコバスに顔が似ていると思ったのですが、流用していたからなのですね。裏設定、変遷がとても興味深い。1997年に、新しい「もののけ姫」が映画化されるまでに作られたスタジオジブリの作品たち、印象がちょっと変わりました。本当に作りたかったものを、少しずつ忍ばせている感じなのですね。
ヒロインは「三の姫」の「三」からとった「サン」。緑色の髪は「三の姫」の着物の色だ。
元祖のおもかげ、雰囲気が別物になった映画「もののけ姫」。「サン」の名前と髪色、「肉親に捨てられた」という設定だけが残ったというお話。たしかに、80年版とは別物ですもんね。
80年版から97年版に至るまで、変わった部分は、ほかのジブリ作品に登場してしまったのですね。1本の線の中に、様々なジブリ映画が誕生していて、すべて合わせて「もののけ姫」なのだと感じました。
叶精二