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練習も本番も、円明の心で斬る宮本武蔵

 

生涯負けなし。二刀流で有名な剣豪、宮本武蔵さん。ご著書の「五輪書」に記されている流派は「二天一流」。二つの天とは、密教の「月輪と日輪」で、月と太陽、陰と陽を意味するものらしいですね。

 

本のタイトル「五輪」も、密教由来で「五大」のこと。地、水、火、風、空の5つの要素。全五巻の巻物のタイトル、「地の巻」「水の巻」「火の巻」「風の巻」「空の巻」と五大になぞらえてますね。

 

一説によりますと、「二天一流」以前に「円明流」を名乗られていた時期があるそうです。以前見つけた本、「円明」のくだりがおもしろい。

 

 

あるとき、武者修業中の侍が宮本武蔵に、「先生、剣道の修行に最も大切なことは何でございましょうか」と質問したことがある。


「円明(えんみょう)」


武蔵はこう答えると、畳のへりを指して、「まず、そのへりを渡ってみられよ」といった。


(中略)


「剣道の修行にも、同じことが言える。畳のへりを渡るのはやさしい。しかし、高さが一間にもなれば、非常にむずかしくなる」

 

 

極意の話―知性を越えた心の世界

 

 

平均台の上は気軽に歩けても、高層ビルの綱渡りはなかなかできない。同じ幅であっても、高さが違うだけでできなくなる。別の書籍でも読んだことがある「丸木橋の極意(丸木之法)」と同じ感覚でしょうか。

 

竹刀や木刀の稽古では平然と剣を振れても、真剣で斬る斬られる状態では心が変わる。相手の命、自分の死が見えてしまうと、心穏やかに刀を振り下ろすのは難しいというお話。

 

見えてしまったもの、恐怖を克服する精神。剣術に必要な心の修行が「円明」なのですね。心臓のドキドキ、円明無垢の境地で沈める練習。密教用語で「密教の金剛界法の修法のとき,行者はみずからの肉団心 (心臓) を円明無垢の月輪であると観じること(「心月輪とは」より)」と紹介されていました。

 

水面に映る月、水が乱れれば月も正しく映らない、明鏡止水も同じ。心に何も置かない、無念無想も同じ。非日常であっても、日常と同じでいられる精神状態。本番でも迷わない、相手が誰でも緊張しない、失敗を恐れない、円明とは「いつもどおり」ということでしょうか。

 

勝ち負けを意識しすぎて、普段通りの実力が出せない。試合でも、相手が自分より強いと思っただけで何もできなくなる、勝負の前に気持ちで負けてしまうことがありますもんね。戦うための心のトレーニング、興味深いです。

 

 

 

極意の話―知性を越えた心の世界

志村武